第1章

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 住宅街の車道にしては少し狭い道で、僕は立ち止まる。ここを更に何度か曲がって進むと、大きな道があって、僕はいつもそこを駅まで歩いているんだ。   見れば、道の先にいつもの僕と同じような暗い色のスーツを着た会社員が歩いていく。  あーあぁ、スマホ見ながら歩いてるよ。  危ないのにな、でもスマホの画面を見てなきゃじっと歩いていられないくらいに通勤が辛いのか、それともスマホ依存症かもしれないか。  上等とは呼べない量販もののスーツ、少し投げやりに歩く足、適当に整髪料をつけてなんとか形にしただけの頭。なんだか歩いていくその後姿に悲しい気分を覚えて、僕は踵を返した。  僕は会社にはいかない。  だって、猫だから。  今は取引先も上司も同僚も関係ない、僕は僕の夢の中で自由になれるんだ。  胸の中で自分にそう言って、僕は目的地に向かって走った。
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