第1章

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「なおん(ついた)」  濃い灰色のブロック塀に飛び乗って、僕は外の階段へと足を進める。元は白かったグレーの手すりに駆け上がって、ベランダに降りた。  そう、ここは僕の部屋だ。せっかく猫の体になってこれから冒険に行こうって時には色々と準備したいものがある。まずは腹ごしらえ、それからトイレなんかも済ませたい。  猫の前足で料理はできないけれど、昨日スーパーで買い込んだスナック菓子なんかは猫でも開けられる気がするし、いくら猫になったからと言って心は人間なんだからいきなり外の地面で用をたすと言うのも……ちょっと思い切ることができない。  いつだったか、ネットの動画でトイレを使いこなす猫を見たことがあるから、大丈夫だろう。  僕はいつもの癖で、寝るときはベランダのサッシは鍵をかけずに少し開けている。不用心だなとも思うけど、よっぽどの寒い冬じゃない限り少しでも新鮮に感じられる空気が欲しくて、つい開けっ放しにしてしまってる。  僕はサッシの端に手を、いや前足をかけて、力を入れてみた。
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