第五話

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「華先生が一緒に来てくれたから、真波もプリティーシャボンのシール貰えてご機嫌だったし、俺一人だったら、多分映画観てさっさと帰っておしまいだった。正直、真波に映画観に行きたいって言われたとき、そこまで気乗りしなかったんだ。でも華先生が『一緒に』って言ってくれて、今日が凄く楽しみになった」  航汰の言葉に少しだけ目を見開いた華が、やがて何かを思い出したようにフッと吐息で笑った。 「そういえば航汰、友達居ないって、本当なのか?」  問い掛けてくる華は、数時間前にレストランで見た笑顔を浮かべている。何となく嬉しそうな、安心したような笑顔。 「……さっきも思ったけど、華先生なんでちょっと嬉しそうなの」 「航汰は、友達多そうなのにと思って」 「全く居ないってことはないけど、今日みたいにこうして一緒に出掛けたりするような友達は、居ないかも。今は特にバイトもあるし、休みのときは真波が居るから、連れてくワケにもいかないし」 「やっぱり、妹思いだな、航汰は」  電車が線路を走る規則的な振動音と、華のゆったりした口調が、耳にとても心地好い。  この時間がずっと続けばいいのに。  このまま電車が駅に着かなければいいのに。  航汰がそんな願望を抱いているなんて知らないであろう華が、静かに言葉を続ける。 「……俺も、誰かと出掛けるなんて、日頃は無いから、実は嬉しかった」 「え……」  ───それは、俺と出掛けるのが嬉しかったってこと?     
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