最終話

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「どうして保育士になったのかわからない」なんていう評価ばかりだった華は、今では「見た目は恐いけど、そう悪い先生でもないみたい」と評されるようになっていた。  プライベートでは、再び航汰が数日おきに夕飯を届けに行くようになり、休日には時々一緒に出掛けることもある。真波がセットのときもあれば、二人きりのデートも何度か経験した。  今でも華は性質の悪い酔っ払いが苦手で、見かけると必ず発作を起こす。けれどその理由を今は航汰も理解しているので、人通りのない場所で暫くジッと華の身体を抱き締めていると、最近では比較的すぐに症状が和らぐようになってきた。  航汰と華の関係も、『恋人』と呼ぶにはまだまだ浅いお付き合いだが、それでも何かが少しずつ、二人の周りで変わり始めている。  何より嬉しいのは、華が心から笑う時間が増えたことだ。  園に居るときも、航汰のバイト先に立ち寄ったときも、それから二人で過ごしているときも。  華は「何も返せない」と言っていたけれど、華の笑顔を見るだけで航汰がどれだけ満たされているか、きっと華は気付いていない。  そんなところも愛おしいんだけど、と次々にやってくる園児の対応に追われる華を見詰めながら、航汰は苦笑する。 「それじゃあ先生、今日もよろしくお願いします」  いつもの挨拶をした航汰に、華は「また後で」と口の動きだけで伝えてきた。     
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