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真波が保育園に通っていた間は、万が一他の園児やその保護者に出会ったら…、と極力華の自宅以外で会うのは控えていたけれど、真波が卒園した今、それを気にする必要ももう無い。
だからこれまで以上に堂々とデートだって出来るのだが、真波を送迎する度に見ていた華の保育士としての姿が見られなくなるのは、やっぱり寂しい。
春休み中ということもあって、平日だというのに館内はそこそこ混み合っている。
人混みの中でも頭一つ分飛び出している長身の華はともかく、照明も暗めの館内では真波はすぐに人の波に飲み込まれてしまいそうだ。
「にーちゃん、アザラシのぬいぐるみ欲しい!」
「お土産は最後な。それより人多いから、はぐれるなよ」
心地良さそうにゆったりと水中を行き交うアザラシを追い掛けて、そのまま離れてしまいそうな真波の手を握る。すると、反対側の手がさり気なく握り込まれた。
驚いて顔を上げた先で、華が航汰を見下ろしながらほんの少し目を細める。
水槽の前には大勢の客が集まっているけれど、皆愛らしいアザラシに夢中で、こっそりと繋がれた華と航汰の手を気にしている人間は、一人も居ない。
混雑した館内で、突然華と航汰の空間だけが切り離されたような気がして、ドキリと胸が鳴る。寂しいと思っていた胸の内を見透かされてしまったようで、余計に胸が高鳴った。
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