番外編 手を出したいのは俺の方

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 華と付き合ってそれなりに日が経つのに、こういう不意打ちに、航汰は未だに慣れない。  次から次へと水槽の前を行き交う客の中には、相変わらず華の強面にギョッとした顔を浮かべる人も居る。華は出会った頃からその手の視線を気に掛けていなかったが、今では航汰も気にしなくなった。優しくて、でも少し臆病な華の本当の姿は、自分がわかっていればそれでいいと思うから。  人に紛れて、さり気なく手を繋ぐことしか出来ないのがもどかしい。もっと触れたい、という想いを込めて航汰が華の手をキュッと握り返したとき。 『この後、十一時よりイルカショーを行います。皆様、是非ショースタジアムにてご観覧下さい』  流れてきた館内放送を聞いた真波が、キラキラした目を航汰に向けてきた。 「イルカショーだって! 行こう!」  グイッと航汰の手を引いて、真波がスタジアムへ向かう人々の群れに混ざって歩き出す。 「あっ、コラ待てって!」  反動で華との手が離れてしまったのを惜しむ間もなく、真波はズンズン歩いていく。このままだと真波との手も離れてしまいそうだと慌てて追い掛ける航汰と真波の横に並んだ華が、「急ぐと危ないよ」と今度は真波の逆の手を握った。その顔は、航汰と二人きりのときには見せない『華先生』の顔だ。     
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