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真波ちゃんも喜んでくれてるし、と華が前のめりでショーに見入っている真波を見遣って微笑む。俺だって嬉しいよ、という言葉はこの場では辛うじて呑み込んで、航汰は声のトーンを落とした。
「あのさ……。真波連れて帰ったら、お礼に夕飯、作りに行っていい?」
以前は航汰が自宅で家族の為に作った夕飯を華にお裾分けしていたのだが、最近は母の仕事に余裕があれば、航汰は華の自宅に出向いてそこで夕飯を振る舞うようになっていた。お陰で殺風景だった華の自宅のキッチンにも、今では調理器具や調味料などが一通り揃っていて幾分賑やかになっている。
「有り難いけど……家の方はいいのか?」
「今、母さんも仕事ひと段落してるから、ウチは大丈夫」
「心配、されないか?」
「心配って、母さんに?」
「……結局まだ、挨拶にもちゃんと行けてない」
華が、細い眉を申し訳なさそうに下げる。
華との付き合いを、航汰も結局母にはまだちゃんと打ち明けてはいない。けれど、明らかにバイト以外の目的で夜出掛けて行く航汰を、母も特に深く追求してくることはなかった。精々、「あんまり遅くならないように気を付けなよ」と声を掛けてくるくらいだ。
「それなんだけど……俺もまだ先生とのこと、親には話せてないんだけどさ。でも、何となく母さんは気付いてる気がする」
「そうなのか?」
鋭い切れ長の目を驚いた様子で軽く見開いた華に、航汰は小さく頷き返す。
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