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華の肩口から顔を浮かせた航汰の頬へ、柔らかく唇が触れてくる。けれどそれだけで呆気なく離れてしまった華の顔を、航汰は不満げに見上げた。
「そこだけ?」
「イルカは、ここだけだった」
「じゃあやっぱり、イルカと同じじゃなくていい」
焦れた航汰の方から、今度は華の唇を奪う。仕方ないな、と言いたげに苦笑を漏らした華が応えてくれて、口付けの角度が徐々に深くなっていく。ところが軽く舌を触れ合わせたところで、やはり華の唇はスッと航汰から離れていった。
「あんまり遅くなると、家族が心配するぞ」
「遅くなるかもって言ってきた」
俺が後ろめたい、と華が困ったように笑う。
いつも、ここまでだ。
あと二ヶ月ほどで航汰と華の交際も丸一年になるが、これまでキス以上の触れ合いは全くない。
別に肉体関係目当てで付き合っているわけでは断じてないけれど、年頃の航汰としては、いつまでも進展しない華との関係は、正直歯痒いものがある。
「航汰、背、伸びたか?」
肩口で密かに口を尖らせる航汰の髪を撫でながら、ふと華が言った。
「伸びたよ。って言っても、四センチくらいだけど」
「成長期だから、まだ伸びるんじゃないか」
「……俺がデカくなっても、先生平気?」
ポツリと問い掛けた航汰に、髪を撫でる華の手が止まる。
「平気って、どういうことだ?」
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