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周りからその変化がどう見えているのかはわからないけれど、少なくとも航汰には、彼が纏う空気が出会った頃より穏やかになったように感じる。真波が卒園する頃には、「華先生って結構優しいよね」と口にする保護者の姿を何度も見掛けるようになった。
そんな声を聞くたび、華の努力が報われて良かったと嬉しくなる半面、自分はもう保育士としての華を見られなくなる悔しさと寂しさで、苦しくて堪らなかった。
「華先生。俺、もう真波の送り迎え、行けないんだよ。仮に俺が保育士になれたとしても、それってまだ何年も先じゃん。それまで、俺以外の人たちが保育士として頑張ってる華先生の姿を見てるんだと思ったら、我が儘だってわかってるけど、妬けて妬けて仕方ない。いつか、華先生のホントの顔に気付いた人に、先生のこと、盗られるような気がして」
「こんな俺を好いてくれるのは、航汰くらいだ」
「先生は、自分の魅力わかって無さすぎだよ。真波だって先生のこと大好きだし。……もしも俺が先生と付き合ってなくても、さっきみたいに『大事にしたい』なんて言われたら、絶対惚れる」
「そんなこと、お前以外に言わない」
躊躇いもなく言い切られて、またしても航汰は何も言えずにギュウギュウと華の背を抱き締める。
無自覚に優しくて真っ直ぐだから、この人は厄介だ。
くっついたまま離れない航汰に、まだ引き下がる気がないと思ったのか、華が困惑の息を吐く。
「それに航汰、今でも手繋いだだけで、緊張するだろ」
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