拾得の縁

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拾得の縁

「僕、産まれてすぐ、親に捨てられたんだ」  熱いコーヒーが入ったマグカップを両手で包み、冷えた指先を温めながら、尚哉が静かに切り出した。  今日は朝から夕方まで大学で授業を受けた尚哉は、自宅のアパートへ帰る途中、通りがかったコンビニの前で思いがけず直樹と出会った。尚哉と直樹は同じアパートの隣り合った部屋に住んでいる。大学入学を期に上京した尚哉が、隣に住む直樹の許へ挨拶に訪れた際、名前が似ていることがきっかけでちょっとした世間話を始めたつもりが気が合って会話が弾み、そのまま友人となった。  尚哉よりも五つ年上の直樹は、事あるごとに一人暮らしに慣れない尚哉の世話を焼いた。尚哉は直樹から簡単な料理や節約術、近所の安いスーパーや雰囲気の良い店などを教わり、いつしか二人は兄弟のような仲になった。 「ご両親とは仲が良いって、三人で写ってる写真も先月見せてくれたけれど……」 「あれは八年前に、僕の親になってくれた夫婦。いい人達だよ。本当の息子みたいに可愛がってくれる」  語り出した尚哉の話を、直樹はたまに頷きながら聞いた。外は雪が降っている。     
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