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「尚哉は進学したくなかった?」
「早く働かなくちゃいけないと思っていた。でも、ナオちゃんは折角勉強が得意なんだから、進学しなきゃ勿体ないって言ってくれて」
「ナオちゃんて呼ばれてるのかい?」
「あ、言ってなかったっけ。うん。恥ずかしいな。二十歳になった今でもそう呼ぶんだ」
照れくさそうに笑う尚哉に、直樹はつられて微笑む。君が幸せなら良いんじゃない、と肩を叩いて、湧いていた疑問を投げかけた。
「ちなみに今の君のご両親は、君の親戚とかなの?」
「ううん。聞いた話だけれど、二人が結婚してすぐに産まれたお子さんが社会人になって独り立ちしたらしくて、すごく寂しかったんだって。そこで養子の話が出て、偶然僕を見付けてくれたみたい」
そこで言葉を切り、尚哉はまたコーヒーを飲んだ。雑誌で取り上げられる有名な喫茶店のコーヒーよりも、直樹が淹れたものの方が尚哉は好きだった。
「僕を産んだ親は僕をいらないと思って捨てたけれど、今の両親はそんな僕を拾って大切にしてくれて、僕がいて幸せだって言ってくれるんだ。
……ああ、なんだか突然長い話をしてごめんね。自分でも何を言いたかったのか、話している内に段々分からなくなっちゃった」
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