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星の子
一面に広がる背の高い草が、強く吹く風を受け止めて一斉に揺れる。月明かりが当たって艶やかに波打つ様は美しく、草同士が擦れ合って立てる音は辺りにザアザアと響いている。
「それで? お前が欲しいものは?」
草原の中の大きな岩の上から、魔女は私に問いかけた。
静かな声だというのに、それははっきりと私の耳に届いた。
黒く長いドレスの裾は翻るのに足は見えず、目深に被ったフードも、風に飛ばされることはなかった。
「何でも良いの?」
私は聞いた。私の声もまた、魔女にはきちんと聞こえているようだった。
魔女は表情を変えずに言った。
「それに見合うだけの対価を支払うならば」
私はじっと、フードの奥にある魔女の目を見た。
魔女は目を逸らすことはなかった。ただ私の目を、真正面から真っ直ぐに見つめ返した。
「……それなら」
私は魔女に望んだ。どれだけの対価が必要でも構わなかった。
「力を」
「力?」
魔女は静かに問い返した。
「復讐するだけの力を、私に。私を生贄にするためだけに、神に差し出す今日のためだけに生かしてきた、あの村に、あいつらに復讐するだけの力を」
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