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奴らを殺してやりたかった。
けれども、私にそんな力はなかった。
村人たちは一通り祈り終えると、私の手足を縛って動けなくしてから、その場に置いて帰った。
私はただ、その場で死ぬのを待つしかなかった。
空には少し欠けた丸い月が浮かんでいた。月明かりが強すぎて、周りの星たちはかすんで見えた。
悔しかった。何もできない自分が。たった一人こんな場所で死んでいく、惨めな自分のことが。
静かだった草原に、やがて、風が強く吹き出した。
草原が揺れて波のように音を立てる。
「おや」
そのざわめきの中、突然声がした。真っ直ぐ私の耳に届く、不思議な声だった。
「おい、お前。生きているか?」
私は声の主を探した。身体をよじって岩を見上げると、そこには真っ黒いドレスに真っ黒いフードを被った、黒づくめの女がいた。
長いドレスの裾も、黒髪も、フードの端も、風に吹かれて揺れている。
「よし、生きているね」
女はそう言うと、私のことを指差した。すると不思議なことに、私の手足を拘束していた縄はするりと解けて落ちた。
「……あなたは何者?」
私は立ち上がって尋ねた。だいぶ距離があるはずなのに、その問いは女にきちんと届いたらしかった。
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