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やがて家事に手がかからなくなると、先生は私に魔術について少しずつ教えてくれた。
私は森の動植物や、風の流れや、特別なものに秘められた力について、少しずつ詳しくなった。
そうして、穏やかな日々を先生と過ごしながら、三年の月日が流れた。
「ああ、美味しいね」
先生がお茶を一口飲んでそう言った。
仕事を始めるとつい夢中になって、時間を忘れて没頭するのが先生の悪い癖だ。今日ももうすぐ夜が明けるという頃に仕事部屋から出てきて、そのまま昼まで眠っていた。そんな時、食事やお茶の支度をして先生を起こしに行くのは私の役目だった。
先生が食事をしている間、私は向かいに座って一緒に紅茶を飲んでいた。
私には既に食事も睡眠も、殆ど必要なくなっていた。
瞳は青く、肌は光に当たると煌めき、髪は星の輝きを閉じ込めた銀色に変わった。
ようやく星の欠片が私の欠片に馴染んで、魔力が整い始めたのだと先生は言った。
食事は必要ないが、食事をする先生と一緒にテーブルに着き、同じ時間を共にするのは、三年間で身に付いた習慣のようなものだった。
私は先生のことが好きだし、尊敬している。今のこの穏やかな暮らしに愛着があるのも事実だ。
けれども、私の心は三年前から何も揺らいではいない。
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