思い出は湯気に包まれて

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「唯子は、みんなで入るお風呂好きかい?」 「うん、好き!」 「どうして好きなんだい?」 「うーん……ばぁばと、おかあさんといっしょだから楽しい!」  背後から問われた質問に対し、唯子は手を大きく動かしながら答えた。 「そうかい、そうかい……その気持ち、忘れちゃいかんよ。家族で背中を流し合った事、家族一緒に体の芯まで温まる事――いずれこの銭湯も無くなってしまうかもしれないけど、唯子の記憶の中にはいつまでもこの思い出を残しておくんだよ。思い出は一生無くなったりしない財産なんだから。そしていつか、唯子も同じ事を自分の子供にしてあげる日がくればいいねぇ……背中を流し合えば、家族の絆も深まるものさ」  言葉の意味が分からない唯子は、母の背中を洗っていた手を止めて首を傾げていた。 「もう、お母さん!唯子にそんな事いっても、まだ理解出来るわけないでしょ!はーい唯子ちゃん、またお母さんの背中を洗ってね」 「何だい、別に思ったことを言っただけだい。いいじゃないかい。ねー、唯子」    *** 
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