思い出は湯気に包まれて

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 生命力溢れる龍のように力強く、空高く伸びた一本の煙突から絶えずふき出る白い煙が雲と交わって見える。茜色に染まった秋空を見上げていると、二人分の足音が近付いてくる事に気が付いた。 「唯子(ゆいこ)お待たせー。待った?」  二人の到着を心待ちにしていた私は、母の言葉に返事をするよりも先に暖簾をくぐって、横開きの扉をガラリと開けた。扉の先に広がる景色は時が止まっているかのように、私が幼い頃から全く変わっていない。  下足札の数字がハゲている色褪せた下駄箱、コーヒー牛乳とフルーツ牛乳が入っている小さな冷蔵庫、壁に貼ってある昭和レトロなポスター。  入口まで漂う薬湯の懐かしい香りを身体中で感じていると、全く返答しない私に呆れたように母が呟いた。 「去年は色々バタバタしていたから、二年ぶりかねぇ?女三人でここに来るのは。唯子の小さい頃から、よくお婆ちゃんと三人でここへ来ていたからね」  履いていたスニーカーを下駄箱に入れて、かろうじて数字が分かる下足札を取って振り返った。 「そうだね、二年ぶりだね。前来た時から二年経ったのに……ここで変わった事と言ったら、番台に立っている人が変わる事くらいだね」 「そうだねぇ。前いたお婆ちゃんも、腰を悪くして引退したみたいだからね」  番台に立っている二十代後半位の女性に三人分の入湯料を支払う。彼女の笑った表情が、以前ここに立っていたお婆ちゃんの目元に良く似ていた。
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