思い出は湯気に包まれて

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*** 「ねぇねぇ、ばぁば。ばぁばの背中は、何でそんなにツルツルなの?」 「はっはっは、それはね。唯子がいつも、背中を綺麗に流してくれるからだよ」 「ほら唯子、お洋服一人で脱げるようになった所をバーバに見せるんでしょ?」 「あ、そうだった。ばぁば、唯子ね、もう一人でできるんだよ」  体重計に何度も乗っては肩を落とす女性もいれば、引き締まった肉体美を周囲に見せるように堂々と衣服を脱ぐ女性もいる賑やかな脱衣所で、トレーナーから丸いお腹を覗かせた唯子。 「あーら、上手だね。唯子はもう一人前だね」 「いちにんまえ?」 「バーバが、唯子が一人で脱げて上手だねって褒めてるんだよ。上手にできたから、今日も唯子が真ん中で背中を流し合いっこしようか!」 「やった!唯子がまんなか!」  籠に入れた衣服の上に白いバスタオルを乗せ、フェイスタオルを持って湯気の立ち込める方へ向かった三人――脱衣所と浴室を仕切っている扉をガラリと開けると、薬湯の独特な香りが鼻の奥を擽った。
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