思い出は湯気に包まれて

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 湯の温度を指で確かめ、シャワーで身体をさっと包み込んでから桶に座る。 「唯子は本当に真ん中が好きだねぇ。ババの背中を流している時に、お母さんに洗って貰えるから?」 「うん、そう!」 「そうかい、そうかい。じゃ今日も頭を洗った後、背中を綺麗にしてもらおうかねぇ」 「うん!」  髪の毛を濡らした後、備え付けのシャンプーを手の平に広げる。湯を少しだけシャンプーに混ぜた後、ホイップクリームのような泡を頭の上に乗せる。 「シャンプーを泡立てるのも上手になったねぇ。よし今日は、ババが髪の毛洗ってあげるからね。唯子は目を瞑って、耳を塞いでいてね」  皺だらけなゴツゴツした指先で力強く頭を揉みこむと、さらに頭の上が白い泡でいっぱいになる。 「ばぁば、泡でツノやって!」 「はいはい。今日は、大きな角が出来そうだよ」  重力に逆らうように、頭の上で泡を三角形に形作っていく。鏡で出来上がった角を見ようと目を少し開けると、いつも目の中に泡が入って沁みていた。  
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