62人が本棚に入れています
本棚に追加
髪の毛をすすいだ後、化粧落としで顔を洗っている大人を真似するように唯子も湯で顔を洗う。そこまで終えると、フェイスタオルにボディソープをつけてクシュクシュと泡立てる。桶の向きを変えて、走り出した列車のように同じ方へ顔を向けた三人。
「よし、唯子。ババの背中を流しておくれ」
背中までの少し距離が遠く、もう一度桶の位置を調整する。位置が定まると腰を下ろし、泡でいっぱいになったタオルで宝石を磨くように丁寧に洗っていく。
「ばぁば、きもちいい?」
「唯子は本当に、背中を洗うのが上手だねぇ。ババは幸せだよ」
得意気な表情の唯子の背中も、同時に磨かれていく。
「バーバ、気持ち良いってさ。良かったね、唯子。次はお母さんの背中も磨いてね」
「うん!」
二人の背中が泡で包まれると、次は反対方向へ体勢を変える。唯子は再び、ボディソープをつけたフェイスタオルを揉んで泡立てた。
「じゃ、ババは唯子の背中を磨くよー。二回も磨いて貰えるなんて、真ん中の特権だねぇ」
「特権」の意味が分からなかった唯子は、返事をしないまま母の背中を懸命に磨いていた。
最初のコメントを投稿しよう!