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男子禁制バレンタイン
二月十四日。日曜日。
友チョコの会をやるなどという、はまちーの思いつきにつき合わされて、わたしは今、彼女の家のキッチンに立っている。
流しに捨て置かれているのは、まっくろいどろどろのこびりついた鍋に、ボウル、ゴムべらにバット。作業台と化しているダイニングテーブルは粉だらけ。
映画デートに出かけたという、おじさんとおばさんが帰ってきたら、目をむいてひっくり返っちゃうだろう。
「はまちー。ひょっとして、チョコ、直接火にかけた?」
まさかねと思いつつ、そう聞くと、はまちーは
「そうだけど?」
と、まるい目をぱちりとしばたく。
わたしは大きく息をついた。
「チョコは焦げやすいから湯せんで溶かさないと。温度も高くしすぎたら分離しちゃうから気をつけなきゃいけないんだよ?」
「へー。知らなかった」
はまちーは澄んだ瞳でわたしを見上げると、やっぱ菜摘は物知りだね、と笑った。くせの強い、みじかい栗毛がふわりと揺れる。
「普通さ。作る前にレシピ調べるとかするよね?」
「そーいうの苦手でさ。溶かして固めるだけだし? レシピとか必要なくない? って思ってー」
にかあっと大きな口を開けて笑う。
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