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秘密の黄色
秘密だからねと念押しに唱えてみても、知らないうちに周知の事実になっていた。
よくある話である。
自分自身にそんな経験はないが、好きな男の子をクラス中に言いふらされた女の子はかわいそうだったと思う。明るくて人気者だったあの子も、目を腫らして泣いていた。相手の子がクラスの中でも太っていて少し避けられていたような子だったから、面白がられたのはすぐにわかった。
それ以来、秘密とか守秘義務とか、耳にするだけで嫌悪感を覚える。
しかしこの秘密は、どこか甘い気分にもさせられて、少しくすぐったく感じられた。
「やっぱわかんないけどさ」
ベットに腰掛けると眠気に襲われる。なんとか耐えようとして思いついたのは、ずっと気になっていたこと。
「んー?」
右足親指に、黄色がのせられる。あまりに真剣な顔でするものだから、むやみに動くことはできなかった。
「これ、どういう意味?」
次に、透明な液体を塗りつける。
「別に-?」
端から見れば、微笑ましい。友達同士でペディキュアを塗り合ってはしゃぎあう。味気ない学生寮では、華やかに見えるだろう。
ただ
「ほら」
黄色いのは、自分の親指だけ。姉がいたから器用なのだと言っていたが、どこまでほんとうなのかわからない。
「ひっ」
一瞬、何が起こったのかわからなかった。足下でにんまりと笑うので、口を押さえる。
もちろん、時既に遅し。
「スキあり」
何て声出すんだよと馬鹿にしてくるが、元はといえば全部むこうが仕掛けてきたこと。
こちらは被害者だ。
「あ、ちゃんと落としとけよ」
自分たちは、女ではない。
「わかってるよ」
1人になった部屋で右脚を挙げると、黄色の爪だけが、ツヤツヤと光っていた。
「寝よう」
今日は先にシャワーを浴びておいてよかった。もう眠気には勝てそうにない。
翌朝、裸足のまま食堂に行こうとしたのが見つかって強制的に落とされたのは、別の話。
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