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cracked
選択科目で何となく取った音楽の授業。
私はピアノの置かれた個室で、同じ音楽を選択している里織菜と並んで鍵盤に向かっていた。
アップライトピアノが一台だけ置かれたこの小さな防音室は、音楽室に三つ併設されている。
各自がペアを組んでギターかピアノどちらかを選び課題曲を練習する授業で、私は絶賛苦戦していた。
音楽なんて選ぶんじゃなかった。
「真希……出来そう?」
さっきから繰り返し同じ音を弾く私を、里織菜は心配そうに覗き込んだ。
黒目がちの女の子らしい顔立ち。肩までのボブヘア。
女の私から見ても里織菜は可愛い。
私は首を横に振った。
「だめ、出来ない」
大体にして、私は今までドレミファソは五本指を使って弾くものだと信じて生きてきた。
それをいきなり、ソの音は小指を使わないでまた親指で弾くこと……なんて言われても指が、脳が追いつかない。
そこに左手もつけろというのは無茶な話だ。
里織菜は昔ピアノを習っていたらしいから指運びは完璧だった。
どうにか教えて貰ってここまで来たものの、ペアを組んだ里織菜の足をずっと引っ張り続けている。
里織菜は私の指を見て言った。
「指、長いから大丈夫だよ」
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