1 赤星くんと金之助くん

1/3
4人が本棚に入れています
本棚に追加
/12ページ

1 赤星くんと金之助くん

 ときは江戸。ところは小田原。  綺麗な川の下流に、子供達が寝食を共にして、学び、身体を鍛える、一風変わった寺子屋がありました。  生徒の年齢も出生も多岐に渡るというその寺子屋に、二人の男の子が居ました。  一人は、金之助(きんのすけ)くん。年のころは、9~11くらいに見えます。  貧しい練り物職人の子で、父は既に亡く、母親と二人で練り物を作ってその日暮らしをしていました。背は低くてがりがりに痩せている、ちんちくりんな金之助くんでしたが、くるくるとよく動き、目はきらきらと輝いていて、みんなの人気者でした。  もう一人は、赤星(あかぼし)くん。年のころは11~13くらいに見えます。  大きな練り物屋「赤星屋」の一人息子。自尊心が高く、寺子屋に入ったのも遅かったので、他の子供達とうまく仲良くすることができません。とりわけ背が高くて浮いている赤星くんは、いつも一人ぼっちです。  しかし、その目は鋭くも澄んでいて、顔立ちは歌舞伎役者のように端整です。  赤星くんは、赤星屋を継ぐ一人息子として、自分に重責を課し、真面目に真面目に生きてきたがゆえに、厄介なまでに高い自尊心を育ててしまったのでした。また、能力ばかりを磨いてきたので、人とうまくやることにおいて、ひどく不器用でした。  一方で金之助くんは、自らの人気が、人とうまくやっていかないと生きていけなかったがゆえに身についた技能によるものだと、よくわかっていました。  さりげない褒め言葉や、気をきかせて仕事を手伝う術…人付き合いとは、人格とは遠く離れたそういう技能によって、大きく変わってくるものなのです。  ですから金之助くんは、他には目もくれずに自分を磨いている赤星くんが好きでした。練り物職人の息子であり、自分も練り物を作る身として、本当は脇目もふらず一心に何かに取り組む人になりたかったし、今もそういう人が大好きなのです。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!