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一章1 『記憶の喪失』※挿絵有
何が起きたのか全く分からない。何が起きたのか、どころではない。何もかもがわからない。
気が付いたらウチはここに立っていて。そして、そして目の前には。
女性の生首が、転がっていた。
新鮮な生首だ。つい先ほど体から切り離されたのだろう。血がまだにじみ出している。
ウチは慌ててその首に駆け寄り、持ち上げようとして。そして。ウチには左手が無かった。二の腕あたりが猛烈に傷む。昔からの傷ではなく、今さっき出来た傷の様だ。新鮮な肉の間から骨が飛び出し、血が滴っている。この生首と同じだな、なんて少しおかしく思った。
まあそんな事はどうでもいい。ウチはさっと止血をし、痛覚を一時的に遮断し、目の前の生首に注目する。
右手でつかみ、無い左手の分は稼働魔力によって固定する。そのまま稼働魔力を利用して頭蓋を露出、切り取り、脳を摘出する。
素早く背中にセットし、脳が新鮮な状態に保たれ、カロリーが供給されるように出来たら処置完了。ウチはやっと安堵を感じた。
何に安堵を感じたのだろう。そもそもこの行為はいったい何なんだろう。何故ウチは人の生首から脳を摘出し、保存したのだろうか。
何もかもがわからない。
だって、ウチには全ての記憶が、無いんだから。
まあでも、手掛かりにはなるんだろう。この一連の行為は。
記憶喪失になった人間はそれまでの人生の道筋は忘れていても、習慣としていたことや言語等は忘れないと聞く。はは。聞くも何も、それをどこで聞いたかも覚えてないけど。
エピソード記憶と意味記憶だっけか? そんな情報は今どうでもいいか。
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