一章1 『記憶の喪失』※挿絵有

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 それにしてもウチは落ち着いているな。普通もっと慌てるんじゃないのか? 記憶喪失になったら。  何をもって普通というか、比べる対象もいないし思い出せないけど、ウチの持つ『常識』ってやつは落ち着きすぎだろと突っ込みを入れてくる。  近くに鏡らしきものを見つけたので近づいてみる。割れた鏡だった。割れたのは鏡だけじゃなくこの家全体みたいだけど。  とりあえず自分の姿を映してみて、割と美少女であることに気が付く。  おお! 結構ウチ、イケてるじゃん。この世界じゃ顔なんてみんな良かった気もするが。  ああそうか。イケてるんじゃないや。ウチ好みの、ウチがなりたい顔なんだこれは。元の記憶をなくす前のウチが。  そりゃイケて見えるさ。他人から見て好みかどうかは知らないけど。  よく見ると髪の毛にでかい虫の髪飾りが付いていた。これはフナムシか? 何でこんな巨大なフナムシが…  手で外そうとして、その手が止まる。これは、何かとても大切な物の気がする。外したくない。ずっとそばにいて欲しい。飾り物なのにそばにいて欲しいだって。はは。  あとは服もひどいな。ボロボロだ。肌が多く露出して、血もにじんでいる。下半身なんか丸出しじゃないか。ウチは何かと戦っていたのだろうか? 腕が千切れるくらいだし恐らくそうなんだろう。  …いや違うな、この服。ボロボロではあるけどそれは上半身だけだ。下半身は傷も少ない。最初から下半身丸出しだったのか。てことはウチは露出狂か。やったね。自分の情報が一つ増えたよ。全く役に立たないけど。  ここが自分の家で、着替えの途中だったって可能性もあるけど、露出狂って方がしっくり来た。つまりそういう事なのだろう。だから何って話だ。  ボロボロになった家から出る。見渡す限り、廃墟だらけだ。しかも全部、新鮮な廃墟。ご丁寧に新鮮な死体も沢山添えてある。  とりあえずウチは保存容量の許す限り脳を集めて回る事にした。  親子の死体を見つけて、胸が痛烈に傷んだ。ウチにも人並みの倫理観はあるんだろう。脳を摘出しておいて笑えるが。しかも露出狂のくせに。  いやでもこれは、これは人並み以上だろうか。おかしい。涙がとまらない。
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