一章1 『記憶の喪失』※挿絵有

3/5
前へ
/739ページ
次へ
 何でだろう。何で涙がとまらないんだろう。この死体達は心に刺さった。  父親は息子を守ろうとして死んだのだろう。かばう格好で、共に亡くなっていた。胸に大きな穴が開いている。  母親はどうしたのだろうか。子供に兄弟はいなかったのか。まさか遠方に親しい親戚などいやしないよな。彼らが死ぬことで、悲しむ人間はいないよな。みんな仲良く天国へ行けたよな。  考えれば考えるほど、頭の中がぐちゃぐちゃになる。別にこの親子に限った話ではない。周りは死体だらけだ。この死体達に、まだ生きてる親しい人がいないはずがない。  ウチは嘔吐感に見舞われ、その場で胃の内容物を吐き出した。大したものは入って無かった。簡素な食事。消化の度合いが進んでいるのか、内容を推測することは出来ない。出来ればウチの食生活くらい知る手掛かりになったかもしれないのに。  死体に再度注目する。民間人だからだろうか、脳を破壊せずとも殺せている。軍人は脳さえあれば生き残るからな…。だからちゃんと脳を破壊するか、隙を作りだして思念魔力でハックしないと。  絡み合う親子の姿は昔どこかで見たであろう、恐竜の化石を連想させた。そんな風に意識をそらしながら、子供の死体に目をそらしながら、脳を摘出する。  保存容量はすぐに一杯になった。そういえば4つだったか。背中に収納できる脳は。  死体はまだ沢山ある。あの親子はそっと寝かせてあげた方が良かったかななんて思う。もう遅いけど。  せめてもの償いに、摘出した脳は有効活用させて頂こう。脳をどう使うのか、今は思い出せないが、近いうちにわかるだろう。  これは身近な記憶だったはずだ。そんな気がする。
/739ページ

最初のコメントを投稿しよう!

28人が本棚に入れています
本棚に追加