一章1 『記憶の喪失』※挿絵有

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 思い出すと言えば、ウチの名前は何だろうか…。確か、し…え…あーだめだ。思い出せない。  とりあえず思い出せた『し』と『え』を繋いでシーエとでも名乗っておこうか。ちゃんと思い出したら変更すればいいさ。  この非現実的な光景を前に、ウチの感情は麻痺してしまったのだろうか。さっきまで劇的な悲しみを感じていたのに、今はフラットになってる。目を背けてるだけかもしれないけど。  思い出さなきゃいけない記憶がある気がする。  思い出してはいけない記憶がある気がする。  でもそんなことは今はどうでもいいや。何か、疲れた。そう。疲れたんだ。ウチは。だから思考も雑になる。  さてこれからどうしよう。この死体だらけの廃墟を見ながら、ウチはぼーっと考える。 そうだな。これからどうするかは、適当に歩きながら、考えればいいさ。  幸い脳も沢山ある。何とかなるさ。  ここがどこかも、どんな国なのかも、どんな世界なのかも、つーか自分自身も何もわからないんだ。歩いて別の場所に付けば手掛かりはつかめるだろう。  歩き始めながら、国とか世界とかがあるって事は知ってるのか、なんて思って。  ウチは少し、乾いた笑みをもらした。
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