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別に忘れた訳でも、話したくない訳でもなければ、帽子を被る理由さえ聞かれなければ話す事のない話しで、大抵の人は皆、帽子が好きなんだねとか、似合うからいいねとか、お洒落だね程度で話しが終わったものだ。
しかし、たった今初めて会ったばかりだと思っていた彼は、私が普段帽子を被っていた事を知っていて、更にはその理由さえも知っているなんて…
「…俺が誰だか分からないんでしょ?無理して思い出さなくていいよ」
唖然とした私を見た彼はそう言って哀切な目で微笑むと、言葉が無く黙る私を見てから言葉を繋げた。
「多分近い内に会う事になるから、またその時にね」
そう言った彼は、先程までどこか悲しげな目の色を見せたかと思えば、今度は何かを企む悪戯好きの子供を想わせる笑顔を見せると、本棚の向こう側に消えて行った。
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