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私は携帯を握りしめ、さっき圭吾らしき人を見た場所に、もう一度目を向けた。
どうしたらいいのだろう…
私はボソリと彼の名前を口にした。
分別出来ずに行き場がないこの締め付けられる様な思いを、胸に抑え込む様に携帯を持つ手で胸元にぐっと押さえ付けて。
「…何?」
すると、すぐ真横からそう声がして、私は顔を上げ、声のする方に目をやった。
聞き間違える筈がなかった。
さっきまで聞いていた、彼の、圭吾の声だったから。
「良かった…、思ったより早く見つける事が出来て…」
彼は苦そうに笑いながら、私の背中に手を当て「こっち」と言うと、私の向かおうとしていた道の逆方向に歩く様に促した。
私は、ただただ感涙しそうな程嬉しくて、涙が目に堪りそうだったので俯き加減で何度も瞬きをしながら涙腺に蓋を被せ、彼に一言だけごめんねと告げた。
こんな、記憶を無くして訳の分からない、27にもなっているのに22歳のままな、面倒で情けない私を、彼は探し回ってくれていたなんて…
「…待ってたんなら、店に居れば良かったのに。」
そっと背中から手を離した圭吾の額には、街灯をキラキラと反射させた汗が光る。
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