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そんな圭吾のいる厨房に入ってきた拓磨が、「まぢすみません…」と一言謝辞の言葉を添えてから話し始めた。
「最近は特に学校に行きたがらなくて…。やっぱり無理っすわ…俺には坊ちゃんの面倒見切れねぇ…」
圭吾は冷蔵庫から出したミネラルウォーターを一口口に含むと、厨房の真ん中にあるシンクに両手を突いて俯いている拓磨の方に目を向けた。
圭吾はまたため息を零す。
「でも、お前んとこの親父だって俺を見てくれてたじゃねーかよ…」
「其れは…そうやけど、でも親父の時は俺もいたし、薫の兄貴だっていたから今の俺とは違って…」
拓磨は、そこまで圭吾の言葉に被せる様に言ったが、今更圭吾にそんな事を言ってもどうしようもないと思い改め口を噤むと、両手に拳を作り堅く握りしめた。
そんな拓磨に「じゃあ、お前も子供を作れば良いだろ」なんて身勝手な事を言える筈もない圭吾が、もう一度深くため息を吐いた。
「まぁ、確かにな…。お前の親父の時は楽だったかもな…」
そう呟く様に言った圭吾は、まだ小さかった頃の自分自身の姿や拓磨に薫と、そして拓磨の父親の姿を思い出していた。
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