鈴原家

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「前に話したけど、美咲が退院してから暫くして、美咲達が離婚するってなった時にね、海斗の親権を渡せないって言われた時があって。 美咲が退院後療養の為にね、こっちに帰って来てたって話したじゃない?その時にね、海斗も一緒だったの。 それで、離婚の件ではね、入院する前誠一君に、離婚を考え直してくれって、説得されてたみたいで。退院してからの美咲は、考え直してやり直すつもりだったみたいなの。それで、半年くらいした時に、あっちのお義父さんが海斗に会えなくて寂しがってるって誠一くんから連絡があったみたいで、それならって言って、海斗を先に帰しちゃったのよね。勿論、後で美咲も帰るつもりでいたみたい。 だけど、その後暫くしてから、やっぱり離婚って向こうが言い出したでしょ。どうせ、面倒見れないだろって言われちゃったみたいで。それからまた鬱も悪くなっちゃってたのよね…。その後は、この前話した通りよ。数ヶ月かけてやっと、"離婚して、親権が取れなくても、前向きに生きていこう"って立ち直れたと思ったら、また向こうの気が変わってやり直すってなったりで。」 母がもう一度ため息をつく。 「それでね、また今回も向こうが、前と同じ様に離婚だって言いだしたら…と考えるとね、海斗とは絶対に一緒に居るべきだって思ってはいたのよ。でもね…向こうも海斗を手放したがらないから…。どうしたらいいのか、悩んではいたの。」 私はそうやって話す母から、流れるように景色が変わる前方に目をやると、一呼吸置いてから頷いた。 「そっか…それじゃ私は、鈴原家に戻ったら、その、海斗の事を思い出せるかは分からないけど、とにかく、私の子な訳なんだから、世話をして、必ず一緒にいなきゃだね。」と言って、今度は笑顔を母に向けた。 そんな私に、「そうね。きっとそれがいいはず。私だって、海斗が可愛いんだし。」と言って、一笑した母だったが、その表情には憂色を漂わせていた。 病院の表玄関まで着くと、後から行くと言って、母は私を先に降ろし車を駐車場まで走らせて行った。 私は歩いて病院に入って行く。 この病院のどこかに圭吾がいると思うと、自ずと浮き立ち、気持ちも心拍数も落ち着かなくなってきて、視線の先は忙しなく彼の姿を探し求めた。 だけど今日は母も居る。母は、彼の存在を知らないのだ。
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