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圭吾は続けた。
「それで、その後、バイクの走行中に美咲さんが手を離して飛び降りてしまったのは、俺があんな事を言ってしまったせいで、その事が美咲さんにあんな事をさせてしまう程、不愉快にさせた上、傷つけしまったんじゃないかって…そう思って、凄い後悔したんだ。
美咲さんの気持ちを無視して、それもなんか、どさくさに紛れてやったみたいな気がしてきてさ…。本当に、悪かったって思ってる。ゴメン…。」
沈鬱気に詫び言を重ねる圭吾に、「そんな、考えすぎだよ」と、私はその彼の詫び言を打ち消した。
抑、いくらなんでも告白されたくらいで、そんな事になる筈がない。多少驚きはするかもしれないが、私がそれで傷つくなんてありえない。
記憶はなくても、私の性格は、私が一番よく知っているのだ。
「大丈夫。圭吾君のせいじゃないよ。そんなふうに謝らないで?…その時の事は知らないけど、私がそれで傷付いたりとかは考えられないから。大丈夫。圭吾君が謝る必要なんて、全然ないから。ね?」
私の言葉が耳に入っているのかいないのか、依然として黙り込み、前を見据えて運転を続ける圭吾。
そんな圭吾だったが、暫くすると固かった表情を崩して、「ありがとう。」と私に言った。
それから圭吾は、
「鈴原の家に戻ったら、連絡は取り辛くはなるけど、哲司達を通していつでも会えるし、何かあれば、簡潔にメールで知らせてくれれば、いつでも駆けつけるから…」
と、話した。
家の近くまで来た頃には、名残惜しさに、口を開けば今にでも「帰りたくない」と言う本音が飛び出してきそうで、なかなか閉ざした口を開く事が出来なかった。
そのせいもあってか、長い沈黙は続いたが、昌哉を目にすると、そんな我儘も言える筈もなく。また、そんな我儘を通そうなんてのは、論外だと、そう思い改めると、気持ちに切りをつけた。
「今日はありがとう。楽しかった。」
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