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圭吾は、一切表情を崩さず口を開いた。
「来るときに話した、思い入れがある水族館っていうのが、ここで。あいつが、母親と来た最後の場所もここなんだ。」
「あ、そっか…そうだったんだね…。早く昌哉君のお母さん、帰ってこられると良いね。」
私は、昌哉の母親は病気か何かで入院していて、昌哉と一緒に居られないのだろう…と思って、そう言うと、「うん…。そうだな…。」と、圭吾は一層目を細めて微笑んだ。
お互い何か思う事があったのだろう、私も圭吾も各々に暫く考え込んでいたが、先に切り出したのは私の方だった。
「実はね、私も、もしかしたらここ、初めてじゃないのかもしれない…」
そう言って、水槽の前で脳裏に浮かんだ映像を思い出す。そして、「わからないけどね」と付け足して、隣に座る圭吾の方を見た。
「……まさか、頭に何かしらのイメージが浮かんだりした?」
そう言った圭吾は、微かに眉を寄せた。
「あ、そうそう、そんな感じ。」
私は、思案顔の圭吾を他所に、流石に専門医だけあってそう言う事も分かっちゃうんだな、凄いなー。なんて感心して答えると、圭吾は「それはどんなイメージだった?気分が悪くなったり、不安感とか緊張感とかは大丈夫?」と、私に問いかけた。
「うん、大丈夫。特にそう言った具合が悪くなる事はないかな。全然大丈夫。頭に浮かんだのはね…、さっきの珊瑚の水槽の前で、父親と子供なのか、男性と小さな男の子が手を繋いで歩く後ろ姿で、なんだかそれを少し離れたところから眺めている私がいて、その私を更に後ろから見た感じの映像?だったよ。」
私は少し間を置いてから続けた。
「その男性の後ろ姿が、その…似てたかもしれないんだよね…。その…私の…結婚したって言う旦那さんに…」
そう言って、苦笑いを浮かべた。
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