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「美咲さんも、随分早くに、とっくに気付いてたみたいだけど、旦那の事…。」
圭吾は、敢えて間を空けると此方の様子を伺った。
「…あぁ、もしかして。そっか、やっぱり?」
「うん。浮気…というか、不倫…だと思う」
私は苦虫を噛んだ様に笑うと、溜息を漏らした。
「そっかぁ。なんとなーく、そんな気はしてたんだよね。だって私、記憶を無くす程辛い体験をしてた筈なんでしょう?それ位は、予想は出来てた。」
「そっか。」
「うん…。」
とは言うものの、やっぱり気分は良くなかった。想像はしていたが、自分がそんな結婚生活を送っていたなんて。とんだ人と結婚したものだ…と、半分他人事の様にそう思った。
圭吾は続けた。
「結婚した相手の記憶ごとなくなったのは、逆に良かったのかもしれないな。良かったと言うのもおかしいけど。
…それであの日、事故にあった日なんだけど、夜、うちに来たんだ。美咲さんが。」
「え、私が?」
心臓がギクリと跳ねた。
「あぁ、言っておくけど、美咲さんがうちに来たのはそれが初めてだから。それに、俺、美咲さんからは全然相手にされてなかった位だし。」
圭吾は笑った。「そうなの?」と私が聞くと、圭吾は「うん」と答えて、私は内心ほっと胸を撫で下ろした。
「俺も、結婚してる美咲さんに、軽々しく言い寄れるほど器用じゃないですしね。」
「そうなんだ…」
意外。そう言いかけて口を噤んだ私は、笑って誤魔化してみたが、目を一層細めて笑いながら「今、意外って思ったろ」と言われてしまった。
「だけど、ま、記憶なくしてんのに、あんな風に話しかけたり、揶揄う様な喋り方をすれば、不審で軽くて最低な奴だって思われても当然だよな。」
圭吾は自嘲の笑みをうかべる。
「そんな、最低とまでは思ってないよ。私。」
「うん、わかってる。美咲さんは優しいから。それに、間違った事は絶対にしないって事も。」
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