鈴原家

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「本当に大丈夫なの?もうちょっと先にしてもいいんじゃない?」 病院まで車で送ってくれるという母が、赤信号で止まると、此方を向いて眉を寄せる。私はその車内で母に、鈴原家に行くと決めた事を告げていた。 「だけど、なんだか、いつまでもこのままの状態にしておくと、逆に取り返しのつかない事になってしまうんじゃないかと思ったから…。上手く説明できないけど、そんな気がするの…。」 私がそう言うと、母は暫く黙り込んだ。信号が青に変わったのを確認すると、再びゆっくりと車を発進させた。 そして「そうよね。」と呟くと、息をついた。 「…もしかして、あなたの中のどこかで、海斗を想う母親の美咲がそう思ってるのかしらね。」 「それはわからないけど…、だけど、なんだか嫌な感じに、胸の奥がモヤモヤするの。」 私はそう答えると、窓の外を眺めた。 ここ数日ほど前までは、朝晩が少し冷えても、昼頃になればまだ残暑もあって、秋物の服では汗ばんでしまう程だったというのに、今ではすっかり昼でも、この前まで使っていたエアコンの冷房と同じくらいの風が吹くようになってきていた。 窓越しに射し込む陽の光は、鈴原の家に行く事を決めてからというもの、日増しに大きく膨らんでいった私の中の心配や不安を、溶かしてくれてるかのように私に暖かな熱を与えてくれている。 「そうよ。このままじゃいけないのよ。貴方がどんなに海斗を手放したくなかったのか…。見てきて知ってるのに。ごめんなさいね。」 沈鬱な表情で前を見据え、運転する母。私は、母のその横顔に首を横に振った。 「別にお母さんが謝ることじゃないから。そんなに気にしないで。」 だけど母は、私がそう言ってもまだ何か思う所があるのか、表情を変えずに喋り始めた。 「違うの。このままじゃいけないとは思ってたんだけど、正直な所、考えると辛いからって、問題から目を背けてしまっていたのよ。ほんと、だめね…私ったら。」 そう言って、母は大きくため息をつくとそれに続けた。
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