少女の嘘と夏の祭り

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 明美ちゃんは引っ越しの時、涙で腫らした目を冷やしながら言った。 「私、実は嬉しいんだ、引っ越し。だってお祭りやらなくたっていいんだから」  大事な物を捨てるなんて馬鹿げてる、そう付け足して車に乗り込んでいった。明美ちゃんにはもうそれ以来会うことはなかった。祭りは中止を余儀なくされた。  次の年は祭りの直前に巫女をやる女の子が大けがをして、その次の年は女の子が病気になって……そんな偶然が積み重なっているうちに、ついに町に女の子が生まれなくなってしまった。  でも、祭りをしなくても漁獲高は変化なく……きっとこのまま、この町の人はそんな祭りがあったことを忘れてしまうだろう。 「帰ったら結婚式の準備、急がないとな」 「うん」  私は膝に乗った箱をぎゅっと抱きしめる、その中には真っ白なベールが入っている。それに刺繍を施したのは、お母さんだった。 「これな、お母さんから預かってたんだけどな」  昨日の晩、お父さんが押し入れの奥からこの箱を引っ張り出した。薄く積もった埃を払い、そっと箱を開ける。 「お母さんが、夏美が結婚するときに渡して欲しいって」 「何これ……どうして今まで秘密にしてたの?」     
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