少女の嘘と夏の祭り

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「そりゃ、秘密にしていないと……祭りで持ってかれてしまうだろ? お母さんもそれを心配して、絶対に誰にも見せないでって釘を刺されてたんだよ」  恐る恐る箱から取り出す。もう二十年も箱に仕舞われていたのに、それは真っ白く輝いていた。 「ありがとう」  ぽつりと呟いたその言葉に、お父さんは深く頷いていた。  隠し続けてくれたお父さんに、これを残してくれたお母さんに。私はそっと目を閉じる、今では朧気にしか思い出せないけれど、お母さんが愛してくれていたという証拠が今私の腕の中にある。  目を開けると、海は遠くなっていた。女の子の大事な物と私があの日捨てた【嘘】を飲み込んだ海、私は一生好きにはなれない。
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