好きな人

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好きな人

次の日から、先輩は私のおもちゃアパートに来るようになった。ここにいるときはたいてい一人なので、私はとても嬉しかった。 「先輩は好きな人いますか?」 このあいだの塾の先生たちの会話を思い出したのだ。 「好きだった人はいる」 先輩はさらさらと英単語を書き連ねながら答えた。ふとペンが止まる。ふう、と薄い唇から息が漏れる。ノートに視線を落としたまま、続けた。 「いとこのお姉さん。もうすごいふられ方しちゃったんだけどね。大好きだったんだ」 そこではじめて顔をあげた。色のない顔をしたまま、先輩は私の目をじっとみつめている。 「ひいた?」 私はふるふると首を横に振った。 「そう、いい子ね」 寂しそうに微笑んで、先輩は私の頬にふれた。 その日から、先輩とは会うたびキスをするようになった。
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