先輩

1/3
14人が本棚に入れています
本棚に追加
/22

先輩

学校が終わってから塾が開くまでの間、私たちは校舎の屋上で過ごすことが多かった。 中学校の裏には桂川が流れている。対岸の土手には菜の花が咲いている。屋上からは黄色いそれがよく見えた。パタンパタン、と銀色の電車が何分かおきに川を越えていく。 あの電車の行く先には、京都の街がある。私がいた家がある。隣にはあかりの家がある。その向かいには了介の家がある。 「戻りたいって思ってる?」 向こう岸を眺めながら先輩は言った。 「私は思ってる」 先輩はあの電車のゆく先に、東京という街を想像しているんだ。 「京都人やだ。なんか遠回しにいろいろ言ってくるじゃん。うちのおばあちゃんそうだよ。なんであんなののために東京離れないといけなかったんだろ」 手すりに腕をかけてもたれかかかる。首元の赤いリボンが蝶のように揺れている。今日は風が強い。先輩はか細い。とんでいってしまわないか心配だ。 「なっちゃんは京都人らしくないわね。さっぱりしてる」 短い髪のせいもあってか、昔からよく言われた。奈都ははっきりしてる、男みたいだ、と。口癖のように「なっちゃんはかわいいね」と言う先輩は特別だった。だから次の質問が、よけい胸にきてしまった。 「なっちゃんは男子みたいになりたいの?」 「男子は、好きやありません」 やっとの思いで呟いて、ひざに顔を埋めた。 「まあまあ、嫌な思いさせちゃったね」 先輩は隣に座り、私の肩を抱き寄せる。 「たしかに、今のはいい質問じゃなかったわ。ごめんなさい」 そう言ってヨシヨシと私の頭を撫でた。 ・
/22

最初のコメントを投稿しよう!