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そう考えると、ますます健太郎はよくわからない奴だ。
女の子に言い寄られているのはよく見かけるけど、彼女は作らない。
まあ、特定を作らず適当に遊んでいるのかもしれないが。
「そんなに見つめて。そんなにおれのことが好きか?」
いらぬことを考えながらいつの間にか健太郎を眺めていたのか、視線に気づいた奴はにたりと笑った。
「あほか」
すると奴は俺の胸ぐらを掴み、ぬぅっと顔を寄せ。
「おれは、まんざらでもないぞ」
ぼそり呟いた。
突然胸ぐらをつかまれ真顔でそんな台詞を吐かれたものだから、一瞬どう反応していいかわからず、
「お、おう……」
と間の抜けた返事をすると。
ふわっ。
唇にやわらかい感触。
一瞬何が起こったのかわからず、呆然としてしまった。
驚きのあまり目を閉じるなんてこともできず。
目の前にある奴のまつげを見て「長げぇな」なんてことを考えていて。
この状況でそんなことを考えている自分が、さっぱりわからなかった。
唇を離した瞬間、健太郎が一瞬にやりとした気がした。
いくらでも避けることはできた。
押しのけることだってできた。
なのに、なぜ俺は拒まなかったのか。
受け入れてしまったのか。
寂しさのあまり、とうとうイカれてしまったか。
温もりのあるものなら、なんでもよくなってしまったのか。
「はあ……」
盛大なため息をつかずにはいられなかった。
とりあえず落ち着け、俺。
「なんか、甘いもん食いたくね?」
人の気も知らず、奴は何事もなかったようにそんなことを言い出すので、思考が追い付かず、無性に胸をかきむしりたい衝動に駆られた。
「はぁ?」
「アイスがいい」
「んなもん、ない」
「えー」
「真冬だぞ」
「コタツで食うアイスがサイコーなんだよ」
「そういう贅沢は俺はどうも好かん」
そう言うと、健太郎はチェッとふてくされた。
「……じゃ、しょうがねぇな」
ん?と思ったのもつかの間、奴は俺の頭の後ろに手をまわし、鼻先がつきそうな距離で。
「もっと甘いのいただくわ」
そう言って、強引に乱暴に俺の唇を奪ってしまった。
ちょ、ちょっと待て!!
そう心の中で叫ぶもがっちり押さえられて身動きもできず。
口内を熱で侵されていくうちに。
俺は、完全に。
奴に堕ちた―――。
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