ボーイズ・クリスマス

2/3
5人が本棚に入れています
本棚に追加
/3ページ
「なんだよ」 「もうちょっとそっちやってくれ、足」 そう言って、健太郎はコタツの中でぶつかり合う俺の足を蹴飛ばした。 「おまえなぁ、人ん家にいきなりやってきてコタツ占領するなよな」 俺の斜め横で悠々と足を伸ばしている健太郎の足を蹴飛ばすと。 「おまえ、なんかやらにゃあならんことでもあったのか?」 頬杖をつきながら奴はぼんやりとバラエティ番組を眺めている。 「……別にねぇけど」 「どっか出かける予定でもあんのか?」 「うるせぇな、ねぇよ。そうだよ、なんも予定ねぇよ!」 「だったら固いこと言うな。な」 そう言うと突然俺に向き直り、にっこりと笑ってみせた。 出た。必殺の微笑み。 だけどな。 「……女ならそれで堕ちるかもしれんが、俺にそんな笑顔を振りまいても無駄だぞ」 「あっそ」 そう言うと、さわやかイケメンの笑顔をさっと取り消し、ぶ然とした表情でまたテレビに視線を戻した。 ったく。 なんだ、このクリスマスイブは。 一歩外出りゃクリスマス一色。 きらきらと光るイルミネーション。 街に流れるジングルベル。 家族やカップルたちが楽しそうに過ごしてるっていうのに。 この六畳一間でなんで野郎とこんなむさくるしい時間を過ごさにゃならんのだ。 あーあ。 バイトもフルタイムで働いて、うまく時間つぶしができたのに。 野郎二人でイブを過ごす羽目になるのなら、今日のシフト、遅番だったらよかった。 そもそも、こいつ、なんでこんなところへ来てんだよ。 大学でも頻繁に女子から声かけられたりしてるし、女に不自由なんてしないだろうに。 その気になれば、それこそ「今日だけの彼女」だってゲットできただろうに。 ……そう考えると、なんだか余計に腹立たしいな。 こっちは嫌でもお寒いクリスマスを過ごさざるを得ないっていうのに。 高校時代から付き合っていた彼女に「遠距離は無理」って理由で振られて、一年弱。 おかげでバイト代は貯まったけど。 やっぱり女が恋しいことだってあるわけで。 俺にだって欲はあるわけで。
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!