26人が本棚に入れています
本棚に追加
*
オシャレ感などまるでない地元の街を歩いていると、なんとも自分にしっくりくる感じがして心が落ち着いた。
歩きながら、チャットのアカウントを消去する。関係者の電話番号を片っ端から着信拒否にする。
これで私はどこにも繋がらない。女が集う際に発生する〝かしましさ〟もなくなるだろう。
モダンな雰囲気など一切ない古びた喫茶店に入り、オレンジジュースを注文した。そして席に着き、ふとガラスに映った自分の顔を見つめる。
年齢を重ねるとともに、私も厚化粧になっていた。
その顔に辟易とする。元の土台が醜いからとか、そういう理由もあるけれど、それだけではない。
私は女が嫌いだ。
だから、自分のことが嫌いだ。かといって、男なら好きなのかと言われるとよく分からない。
「文」
名前を呼ばれて振り返ると、啓介が手を振っていた。
走ってきたのか、ひどく息が上がっている。コーヒーを注文し足早に私の正面に座ると、彼は軽く頭を下げた。
「遅れてごめん。電車が遅延してたから連絡しようと思ったんだけど……チャットが通じなくて。もしかして、アカウント消した?」
「あ、うん。ちょっとね。作り直したら教えるね」
啓介はコーヒーに口をつけ、ひとつ息を吐くと、穏やかな笑みを浮かべた。
「……それで。結婚式場の下見、いつにする?」
女は、裏表があるから嫌いだ。
でも、化粧をしない男性に裏側は存在しないのだろうか。私はどうしても考えてしまう。
彼の裏を。
彼の裏に潜む悪魔の存在を。
〝早く結婚話を進めないとな。文の実家は大地主だから、結婚しちまえば遺産はこっちのもんだ〟
実際に言われた言葉ではないのに、どうしても想像してしまう。
きっと、女だからではない。私は人間そのものが嫌いなのだ。高校の頃のあれらの経験によって、私は歪んでしまった。だから聞きたくもない悪魔の言葉が聞こえるようになってしまったのだろう。
〝さあ、文。笑って〟
私は息を止め、とびきりの笑顔を作った。
最初のコメントを投稿しよう!