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……なんちゃって。
もちろんそんな風に言われていないし、言うこともない。
私はその妄想をそっと脇に置き、外向きの言葉を羅列する。
「そんなことないよ。私とサキね、ユカリはきっと忙しいんだろうねーって話してたんだよ。本当、いつもがんばってるもんね」
「私なんてまだまだだよ。昇進試験は受かったんだけどね、もういっぱいいっぱいで、全然仕事回せなくて。あ、それで懐妊祝いどうする? サキ、何なら喜ぶかなあ」
話しながら、私はじっとユカリの顔を見つめていた。
ブラウンの目元。頬の上側に寄せた、抑えめのチーク。
上品な雰囲気は高校の頃から変わっていない。
綺麗だな、と思う。
「……じゃあ、またね。私まだ仕事残ってて、戻らなきゃなの。ここまで来させちゃってごめんね」
そう言って、ユカリはすぐ目の前の建物へと向かった。
ここら一帯で一番大きなビルだ。案内板を見ると、彼女が勤める会社は十四階にあるようだった。最上階だ。
私がそのビルを見上げていると、歩きかけたユカリがふと振り向いた。
「ブンちゃん」
彼女が私の目を見つめる。
心配そうな、でも作られたような、その表情。
「大丈夫? なんだか元気ない?」
紡がれた言葉は、友達を労わる優しさに溢れたものだった。
だけれど、その裏で悪魔が呟いている。
〝仲よし三人グループのうち、一人は結婚して、一人は出世街道真っしぐらで。独り身OLのブンちゃんって、本当かわいそうな人。強がってるけど本当は落ち込んでるんでしょ?〟
「大丈夫! 元気だよ。ありがとう」
私は笑顔を作った。
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