悪魔の言葉

5/9
前へ
/9ページ
次へ
   ……なんちゃって。  もちろんそんな風に言われていないし、言うこともない。  私はその妄想をそっと脇に置き、外向きの言葉を羅列する。 「そんなことないよ。私とサキね、ユカリはきっと忙しいんだろうねーって話してたんだよ。本当、いつもがんばってるもんね」 「私なんてまだまだだよ。昇進試験は受かったんだけどね、もういっぱいいっぱいで、全然仕事回せなくて。あ、それで懐妊祝いどうする? サキ、何なら喜ぶかなあ」  話しながら、私はじっとユカリの顔を見つめていた。  ブラウンの目元。頬の上側に寄せた、抑えめのチーク。  上品な雰囲気は高校の頃から変わっていない。  綺麗だな、と思う。 「……じゃあ、またね。私まだ仕事残ってて、戻らなきゃなの。ここまで来させちゃってごめんね」  そう言って、ユカリはすぐ目の前の建物へと向かった。  ここら一帯で一番大きなビルだ。案内板を見ると、彼女が勤める会社は十四階にあるようだった。最上階だ。  私がそのビルを見上げていると、歩きかけたユカリがふと振り向いた。 「ブンちゃん」  彼女が私の目を見つめる。  心配そうな、でも作られたような、その表情。 「大丈夫? なんだか元気ない?」  紡がれた言葉は、友達を労わる優しさに溢れたものだった。  だけれど、その裏で悪魔が呟いている。 〝仲よし三人グループのうち、一人は結婚して、一人は出世街道真っしぐらで。独り身OLのブンちゃんって、本当かわいそうな人。強がってるけど本当は落ち込んでるんでしょ?〟 「大丈夫! 元気だよ。ありがとう」  私は笑顔を作った。  
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

26人が本棚に入れています
本棚に追加