悪魔の言葉

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   辛辣な言葉の波は、目をつむっていても頭の中に浮かび上がってくるようだった。  聞きたくないのに聞こえてくるのは何故なのだろう。私はいつからこんな声が聞こえるようになったのだろう。  たまらずベッドに身を投げる。  思い出してはいけない。見て見ぬ振りをしなくてはいけない。そう頭の中で唱え、悶えながら、しかし同時に諦めに近い感情も浮かび上がってくる。  もういいのではないか。  私は何に蓋をしているのか。それは私にとって本当に大事なものなのか。何故こんなにも苦しまなければいけないのか。  もう、疲れてしまった……。  ごろりと寝返りを打つ。その態勢のまま、静まったスマートフォンの画面をじっと見つめる。  そこには横たわる私の顔が映っていた。  見つめたくもないその生物の様子を、じっと観察する。目を逸らしていた現実に、そっと手を触れる。  一般的な女性よりも、ふくよかな私の顔。  目は小さく異常に離れていて、鼻はどしりとした団子鼻。口は大きく口角が下がっている。  自分でも思う。ブタっぽい顔。  でも、人から言われると傷つくのは何故だろう。 〝ちょっとちょっと。ブタはさすがにダイレクトすぎるわー〟  そう言って笑ったのはサキだった。  唇にはその若さにぴったりの、ピンクのグロスが光っていた。  サキはいいよね。かわいい系の顔で。 〝そうだね、ブタはあんまりだわ。じゃあさ、ブンちゃん、はどう?〟  そう提案したのはユカリだった。  薄くて真っ赤な唇が大人っぽい。  ユカリはいいよね。無駄の無いスリムな骨格。  そうふざけながらあだ名を付けられたのは、誰もいない屋上で三人、昼ごはんを食べている時だった。  ……そうだ。  暗い記憶が蘇る。開けてはいけない蓋が動き出す。  あの後、ふざけて二人に残ったお弁当を頭からぶちまけられた。  階段から突き飛ばされた。上履きを隠された。他にも、いろいろ。いろいろ。  そしてそれは、いつも誰もいない時のことだった。  他にクラスメイトがいる時にはそんなことはしない。彼女たちは自分をかわいく見せることに余念がない。私たちは仲よしグループだった。  私は再度チャットを開けた。  
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