サカナは出会い、青春を駆ける

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 身体機能がどうなっているのかといったことは現代の科学でもわかっていない部分が多いようで、どうしてこうなったのかも未知の領域とのことだった。とにかく父も母も弟姉も親戚を見回しても、誰もがどんな形であれヒトの顔を持っているというのに、僕だけはこうしてサカナの顔を持って生まれてきてしまったのである。  もちろん詳しく遺伝子の話や機能面での制約の話をされたけれど、正直に言うと難しくて理解できなかった。要約するとほとんど普通の人と変わらない生活を送ることができて、違う部分があるとするなら水の中でちょっと長く活動できるとか、その程度のことだった。 「結構色んな人がいるけれど、サカナっていうのはなかなか珍しいね」  担当医もまた人間の顔を持っておらず、本来それがあるべき場所にはクマの顔が置かれていた。彼はあっけらかんとして、口の端から覗く牙を光らせながら笑ってそんなことを言っていた。  とは言え、周りの人たちにとっては、そんな機能面での同一性や遺伝子レベルの差異なんかは全く関係のない話だった。誰もがこの顔を見て気味悪がり、奇異なものとして扱った。あるときは笑い、あるときは蔑み、あるときは排斥して、僕を彼らとは違うものとして扱った。この現代日本において、移るから近寄らないでくれ、なんてことを本気で言う人もいたのだから驚きだ。魚の目だって移らないのにこの顔が移ってたまるか。     
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