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そんなことを言われたって、サカナなんだから仕方ないじゃないか。それに死んでいない。確かに生きているサカナだ。
殴られるのは痛い。蹴られるのもだ。こればかりはいつまで経っても慣れはしない。感情は殺せても痛覚は殺せないのだから、不便なものだ。
また一発、蹴りが入った。僕の身体はサッカーボールのように地面を離れて宙に浮き上がり、そのまま数メートル先まで転がっていく。しかし減速を前に、突然何かにぶつかって勢いを止める。くすんだ目で上を見ると、どうやら人の足にぶつかって止まったことがわかった。
いや違う。彼もまた、人間ではなかった。銀色の毛が無秩序に逆立ち、光を受けてほのかに青白く光っている。粉雪のように極め細やかで美しい毛は、風に靡いて優しく広がっていながら、その上では凛とした目鼻が強い存在感を放っている。
「よう、随分な挨拶じゃねえか」
真っ白い雪原がパックリと割れて、グロテスクなまでに大きく開かれた口が現れた。そこから荒い息とともに吐き出される低い唸り声は、地面を伝って僕の身体を激しく震わせる。先ほどまで僕を痛めつけて馬鹿騒ぎをしていた連中はピタリと動きを止めた。耳に言語情報として入ってこないような喧しい音が消え、その代わりに微かに聞こえる静かで規則的な息からは、確かな怒りを感じた。
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