未来(みく)の事情

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 彼氏とは別れて普通に会社で働いてるよ、と話すと二人とも目尻を垂れる。自分の立場より下の人間がいるんだと露骨に表現したようでつらかった。  みんないつから結婚に意識が芽生えてくるんだろう。  普通だったと思った子がいきなり結婚し、子供が生まれ、自分の母と遜色ないようなたくましい体型と態度に変化する。 「昔はよかったよね。子供の頃はいろんなことに興味わいてさ。知らないこと、いっぱいあってさ、どんどん吸収しようと思ってたっけ」  美咲はわたしたちをみているけれど、どこか遠くをみているような、そんな目つきをしていた。 「昔はよかっただなんて。過去にすがって生きてるなんて、もったいなくない?」  わたしの何気ない一言に凛子のストローを指す手が止まった。 「今、この時間だって過去になってるけど、どうなんだろうね」 と、凛子がアイスコーヒーをみつめながら小さな声を発した。 「まだ年寄りになってないし。こういうこと思い返せるのは二人がいるおかげなんだけどなあ」  美咲が口をとがらせていると、コーヒーや紅茶が運ばれ、美咲の注文した紅茶を並べたとき、店員から時間を計ってくださいと一緒に砂時計をよこした。  美咲は砂時計をひっくり返す。  こうやってわたしたちの共有する時間もたまっていくのか、と少しずつピンク色に染まった砂がガラスの間を縫って底へと積もっていく。  皆で思い思いの飲み物をすする。この間にも二人はなにを思い、なにを考えながら飲み物をとっているのだろう。
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