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いずれにしても良い気なものですこと、とアルベルティーヌは銀幕中の亜米利加女ふうに大袈裟に肩を竦めてみせるや、桜色の花唇を不敵に綻ばせて私の瞳を覗き込む。
「・・・けれど、そんな血も貴女の渇きを癒してはくれないのではなくって?
決して手に入らない幻想に至高の価値を置いて、容易く得られる実体には塵紙程の値打ちも見出ださないのですもの、男爵夫人は」
アルベルティーヌは外科医のメス捌きそのままの冷徹さを以て私の心理を腑分けしようと試みる。私はさながら九相図の死美女か欧羅巴の解剖図のヴェーヌスの如く臓物を衆目に晒け出す心地で友の手術台に横たわる形となってしまった。
叶う事ならば、直ちに彼女を叱してこれ以上に私の内奥へと立ち入らせる事を留めたかったけれども、名匠の作による小面の如く美しい均衡を保つ平静の仮面を脱ぎ捨てるのは、彼女の言説の正しさを私自身の手で立証する不覚を犯す事となり、自尊心の上からも甚だ好ましくない。
「・・・それなら貴女には解って?
私が欲する血の在処を。幻想から幻想を旅する鴎が辿り着くべき安息の地が何処なのか」
さりとて只ひたすらに沈黙を守り続けられる程悠然とした心持ちでもなかったから、私は謎掛ける獣として、いとも優雅な唇の蠢きのあわいに誅罰の牙を閃かせた。
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