血と薔薇の喜遊曲

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私は、自らの心境を種に一体何を口走っているのか。 アルベルティーヌに傲然と謎掛けを試みたものの、言の葉が唇から離れたその刹那に早くも後悔が芽吹いたのである。 彼女に難題を投げ掛けたところで気丈な彼女が情けなく投了するとは考え難いし、彼女の賢明さを鑑みれば私の心理の文目を読み解く事は決して不可能の領分に属するものでもあるまい。 私は我知らず短慮に駆られてむざむざ自らの秘密を生贄の祭壇に捧げてしまったのである。 古今の英雄や詩聖らの死がほんの僅かな短慮や過失によってもたらされてきた様に、悲運を遂げる者は知らず知らずに滅びに急ぐものなのかしら? 私の性急さは破傷風を招く薔薇の刺ではなかったかと言い知れぬ不安が兆した。 ルイ王朝風の装飾を彩る人面獣の様に謎掛けに命運を賭ける様な真似をどうして試みたのか、と数秒前の私を詰問したけれど彼の瞬間の私は蜉蝣の様に永劫の彼方へと翔び去ってしまった。 「きっと、男爵夫人を満足させてくれる血なんて何処にも無いと思いますわ。 何だって手に入る男爵夫人が求める余地のあるものって言ったら、求められる事しか御座いませんでしょう?」 私を襲った不安は来るべき凶時の化身そのものであった。 赤死病の仮面よろしく破局は自ら不敵に門戸を叩くのだ。 庭に満ちた薔薇の芳香に誘われたらしい熊蜂が重い羽音を立てながら執念く窓辺を飛び回っている。 沈黙の時間を際立たせる蜂の羽音は応えるべき言葉を探しあぐねる焦燥を更に掻き立てた。
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