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最近親があれこれうるさくて、どうにもたまらなくなって一人暮らしを始めたの。そう言ったら中島くんが遊びに来たいと言ってきかない。断る理由をもうこれ以上思いつかなくなって、仕方がないから呼んでやることにした。
「ねえ、絶対ヘンなことしないでよね」
「おいおい俺がいつヘンなことなんかしたよ? 俺、こう見えて紳士なんだぜー」
上機嫌に笑いながら、私の後について玄関のドアをくぐった中島くんがすぐそこでごくりと生唾を飲んだ音が聞こえた。
「来たがったのは、中島くんなんだからね?」
振り向いてにやりと笑った私の顔が中島くんにはどんな風に見えたんだろう。
中島くんは私の部屋の壁に天井に床にまで、びっしり埋め尽くされた須藤さんを見て、それからなんだか乾いた笑いを漏らした。
「これだけカレシにガン見されててヘンなことする気になるヤツがいたら、ド変態だよ」
「須藤さんはカレシなんかじゃないわ」
座布団をすすめたけど中島くんは居心地悪そうに、背後に貼られた須藤さんのポスターに会釈なんかしていた。
「部屋っていうかなんか祭壇みたいじゃね?」
「もうすぐ須藤さんの誕生日があるからね」
そう言って私は須藤さんの声を担当した声優さんの歌ってる音楽をかけた。
「それって何度目の誕生日? 須藤某って何歳になんだよ」
「二十七歳。何度目でもずっと、二十七歳よ」
自分で言った言葉なのに、それがまるで釣り針みたいに胸に引っかかって痛みだす。
冷静沈着、頭脳明晰、長身痩躯のあのひとに、私たちは年齢だけ追いつこうとしていた。
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